31歳からの数学修士

なぜ再び数学するのか

複素三角関数 〜 単位円の束縛を超えて

どうも、佐野です。

ブログタイトルを変えてみました。Imaginary(想像上の)と Imaginative(創造的な)、どちらも数学(特に複素数)の面白さを表現する良い形容詞かなと思って並べてみました(前のなんとかサブレについては忘れてください)

前回の複素指数関数 に続き、今回は三角関数複素数範囲で定義し、その写像の形を見ていくこととしましょう。

複素三角関数の定義

オイラーの公式」を再掲します:

 e^{ix} = \cos{x} + i \sin{x} \tag{1}


 x -x に置き換えると、

 \begin{eqnarray}
e^{-ix} &=& \cos{(-x)} + i \sin{(-x)} \\\
&=& \cos{x} - i \sin{x} \tag{2}
\end{eqnarray}


で、 (1), (2) から:

\displaystyle
\begin{cases}
e^{ix} + e^{-ix} = 2\cos{x} \\\
e^{ix} - e^{-ix} = 2i \sin{x}
\end{cases}
\Leftrightarrow
\begin{cases}
\cos{x} = \frac{1}{2}(e^{ix} + e^{-ix}) \\\
\sin{x} = \frac{1}{2i}(e^{ix} - e^{-ix})
\end{cases}
\tag{3}


を得ます。この式は三角関数  \cos{x} , \sin{x}複素関数  e^{ix}, e^{-ix} の1次結合で表されることを示しています。

f:id:taketo1024:20150127214427p:plain

さて、複素指数関数  e^z は任意の複素数に対して定義できるのだから、(3) の右辺の実数  x複素数  z に置き換えてもそれは関数として成立します。そこで左辺の  x z に置き換えて、それを複素数  z に対する  \cos, \sin の定義としてしまいましょう!


\begin{eqnarray}
\begin{cases}
\cos{z} &=& \frac{1}{2}(e^{iz} + e^{-iz}) \\\
\sin{z} &=& \frac{1}{2i}(e^{iz} - e^{-iz})
\end{cases}
\end{eqnarray}
\tag{4}


これが複素三角関数です!

複素三角関数の性質

複素三角関数はちゃんと三角関数の重要な性質を引き継いでいます。

まず  e^z = e^x(\cos{y} + i \sin{y}) 2 \pi i 周期(虚数周期)なので  e^{iz}, e^{-iz} 2\pi 周期(実数周期)となり、(4) の定義式より:


\begin{cases}
\cos{(z + 2\pi)} = \cos{z} \\\
\sin{(z+ 2\pi)} = \sin{z}
\end{cases}
\tag{5}


で、複素三角関数も実三角関数と同じく  2 \pi 周期となっています。

また、

\begin{eqnarray}
\cos^2 z + \sin^2 z &=&  \{\frac{1}{2}(e^{iz} + e^{-iz})\}^2 + \{\frac{1}{2i}(e^{iz} - e^{-iz})\}^2 \\\
&=&  \frac{1}{4}(e^{2iz} + 2 + e^{-2iz}) - \frac{1}{4}(e^{2iz} - 2  + e^{-2iz}) \\\
&=& 1 \tag{6}
\end{eqnarray}


より、 \cos, \sin の平方和が  1 になるという性質も満たされています。

さらに、


\begin{eqnarray}
\begin{cases}
\cos{(-z)} &=& \frac{1}{2}(e^{-iz} + e^{iz}) &=& \cos{z} \\\
\sin{(-z)}  &=& \frac{1}{2i}(e^{-iz} - e^{iz})  &=& -\sin{z}
\end{cases}
\end{eqnarray}
\tag{7}


で、 \cos は偶関数、 \sin は奇関数であるという性質も同じです。

他にも「 \cos, \sin の変換公式」や「加法定理」も成り立つことが確認でき、(4) は三角関数複素数版」に相応しい定義式であることが納得できるはずです。

複素三角関数の形

それでは、複素三角関数の形を見てみましょう!

 \cos, \sin 2 \pi 周期なので、実部においては  0 \le x \le 2\pi なる範囲を調べれば十分です。とりあえず  0 \le y \le 1 として長方形がどう移されるか見てみましょう。

まずは  \cos は:

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これは…長方形が楕円(のような図形)に移っています。長方形の高さを 2にしてみましょう。

f:id:taketo1024:20150127204758p:plain

楕円(?)がグッと大きくなりました。
次に  \sin を見てみると:

f:id:taketo1024:20150127204818p:plain

あれ…?全く同じ?

詳しく調べるため、  \cos, \sin の定義式を実部・虚部が見える形に展開してみましょう。


\begin{eqnarray}
\begin{cases}
e^{iz}  &=& e^{-y+ix} &=& e^{-y}(\cos{x} + i \sin{x} ) \\\
e^{-iz} &=& e^{y-ix}  &=& e^{y}(\cos{x} - i \sin{x} )
\end{cases}
\end{eqnarray}
\tag{8}


より、  \cos は:

\begin{eqnarray}
\cos{z} &=& \frac{1}{2}(e^{iz} + e^{-iz}) \\\
&=& \frac{1}{2}e^{-y}(\cos{x} + i \sin{x} ) + \frac{1}{2}e^{y}(\cos{x} - i \sin{x}) \\\
&=& \frac{e^y + e^{-y}}{2} \cdot \cos{x} - i \frac{e^y - e^{-y}}{2} \cdot \sin{x} \tag{9} 
\end{eqnarray}


ここで  y を固定して  \cos{x}, \sin{x} にかかっている  y の関数をそれぞれ  A = \frac{e^y + e^{-y}}{2},  B = \frac{e^y - e^{-y}}{2} とおけば、

 \cos{z} = A \cos{x} - iB \sin{x} \tag{9'}


で、これはまさに楕円のパラメータ表示です。

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実軸に平行な直線が楕円に移ることが分かったので、  y を動かして直線を平行移動させれば、次のように楕円が平面内で広がっていく様子が想像出来るでしょう:

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特に  y = 0 、つまり  z が実数のときは、 cos z は実軸上  -1 1 の間を振動しています。これは実数版  \cos x の挙動そのものですね!実数における振動運動は、短半径  B 0 になった場合の特殊な楕円運動と考えることができます。

一方  \sin は:

\begin{eqnarray}
\sin{z} &=& \frac{1}{2i}(e^{iz} - e^{-iz}) \\\
&=& \frac{1}{2i}e^{-y}(\cos{x} + i \sin{x} ) - \frac{1}{2i}e^{y}(\cos{x} - i \sin{x}) \\\
&=& \frac{e^y + e^{-y}}{2} \cdot \sin{x} + i \frac{e^y - e^{-y}}{2} \cdot \cos{x} \tag{10}
\end{eqnarray}


で、上と同様に  A, B をとり「 \cos, \sin の変換公式」を使えば、

 \sin{z} = A \cos{(x - \pi / 2)} - i B \sin{(x - \pi / 2)} \tag{10'}


となり、(9) と見比べるとスタート地点が違うだけで、軌跡としては全く同じ楕円を描くことがわかります。

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これより  \cos, \sin は共に 「実軸に平行な直線を楕円に移す周期関数」 ということが分かりました!そして実数の  \cos, \sin は、この楕円が潰れて線分になった特殊ケースだったのです。

再び「オイラーの公式」へ

(4) より、

\cos{z} + i \sin{z} = e^{iz} \tag{12}


で、これは「オイラーの公式」の複素数版です。
これと先ほどの平方和の式:

\cos^2 z + \sin^2 z = 1 \tag{7}


を見ると、  e^{iz} は単位円上にあるように思えてなりません。しかしそうはならないのです。

実際  z = i のとき  e^{i^2} = e^{-1} = 1/e で、これは  1 よりも小の実数です。ではこのとき  \cos{i}, i \sin{i} はどこにいるのでしょう。

再び:

e^{iz} = e^{-y}(\cos x + i \sin x) \tag{8.1}


より、  y:一定のときは e^{iz} は半径  e^{-y} の円周を動くことが分かります。

 y = 1 と固定して、 x を実軸上で動かして  \cos z ,   i\sin z,  e^{iz} の動きを見てみると…

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おぉ…!まるで小さな太陽系のようではありませんか。

 \cos z ,   i\sin z は直交する楕円上を動いており、その和である  e^{iz} は二つの楕円の歪みが打ち消されて半径  1/e正円上を動いています。

今度は  y = 0 としてみると、

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 \cos x, i\sin xの和としての単位円上の運動が出てきました。これは実数版の「オイラーの公式」を可視化したものです。

 y をさらに虚軸の負の方向に進めていけば e^{iz} の半径はどんどん大きくなっていきます。このように三角関数複素数へと拡張されると、「オイラーの公式」は単位円の束縛を超え、原点を除く複素平面全体へと広がって行くのでした。

後書き

二つの楕円運動の和として円運動が出てくるのはビックリしませんか? 僕自身今まで式を見て分かっていたつもりのものが、可視化されたことでグッとイメージできるようになりました。

今回使ったグラフもコチラに置いておきます:

次回は一度複素解析から離れて、実解析の基礎である「 \varepsilon \delta 論法」について書いてみようと思います。それでは、また!

※ 今週の金曜日は「第一回 プログラマのための数学勉強会」です!