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31歳からの数学修士

なぜ再び数学するのか

自分で見つける「オイラーの公式」

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どうも、佐野です。

昨年末に id:tsujimotter さんの「数学アドベントカレンダー」に駆られて勢いで始めたこのブログですが、まだ主旨が定まっていなかったので年末年始に考えてみました。

僕は学部で数学科を卒業して以来ずっと数学と疎遠でいたのですが、色々な縁もあってまた数学を学び直そういう気になり、当時みたく追われるように学ぶのではなく、好きな分野をじっくりと吟味して納得したことを記事として残して行こうと、そういう感じでこのブログを続けて行けたらいいかなと思いました。

またせっかくエンジニアをやっているので、数学とプログラミングの共通するところとか、コードを書くことで見えてくる数学の姿についても触れられたらと思っています。

というわけで、新年一発目はみんな大好きなオイラーの公式です。

オイラーの公式」とは


 e^{ix} = cos x + i sin x \tag{A}

これが「オイラーの公式」です。
特に x = \pi の場合の、


 e^{i \pi} = -1 \tag{B}

を「オイラーの等式」と言います。

この公式は『ファインマン物理学』の中でも「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい公式」と書かれているのですが、一体何がそんなに素晴らしいのでしょうか?

まず (B) には詩的な趣があります。簡単な等式の中に負の整数  -1、円周率  \pi とネイピア数  e(共に無理数)、そして虚数  i が出てきます。指を折り曲げて「1, 2, 3...」と数えられる数しか知らなかった時代から、英知の積み重ねによって少しずつ発達してきた数学の歴史を感じさせてくれる、俳句のような式です。

(A) はより実践的で、物理学や工学においても頻繁に用いられる式です。見慣れてしまえば驚くこともなくなりますが、やはりよく考えてみると不思議です。左辺は指数関数で、右辺は三角関数。両者はそのグラフを見比べれば分かる通り、形も性質も全然違うものです。

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「実数」においては全く別だったものが「複素数」においては繋がっていたという、そういう奇跡の発見のような式なのです。

解析学における「証明」

大学で習うオイラーの公式の「証明」はだいたいこんな感じです。
指数関数のテイラー展開

  \begin{eqnarray}
e^x = 1 + \frac{x}{1!} + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \frac{x^4}{4!} + ... \tag{1}
\end{eqnarray}


そして三角関数テイラー展開

 \begin{eqnarray}
cos x &=& 1 - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} - \frac{x^6}{6!} + \frac{x^8}{8!} ... \tag{2} \\
sin x &=& x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \frac{x^7}{7!} + \frac{x^9}{9!} ... \tag{3}
\end{eqnarray}


(1) と (2), (3) はなんとなく似ていますよね。(2) と (3) を単純に足すのでは (1) と項の符号が一致しませんが、 (1) において  x ix と置き換えてみると、

  \begin{eqnarray}
e^{ix} &=& 1 + \frac{ix}{1!} + \frac{(ix)^2}{2!} + \frac{(ix)^3}{3!} + \frac{(ix)^4}{4!} + ... \\\
&=& 1 + i\frac{x}{1!} - \frac{x^2}{2!} -i \frac{x^3}{3!} + \frac{x^4}{4!} + ... \\\
&=& (1 - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} - ...) + i(x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - ...) \tag{4}
\end{eqnarray}


となり、(4) の実部・虚部はそれぞれ (2), (3) の右辺と一致しているので:

 e^{ix} = cos x + i sin x \tag{A}


を得ます。

いやー、凄い発見ですよね。

よりストイックな立場では、はじめから複素数の範囲で (1) 〜 (3) を指数関数・三角関数の「定義」として、それを実数に制限したものが今まで馴染んできたものと同じであることを示すということをやるのですが、ここまで来るとなんかもう偉大すぎて親近感を持てなくなりますよね。大聖堂を見て神を信じる気にはなっても、「よし、俺も建築家になろう」という気にはなりにくいというか。

エンジニアとしてはやはり「どうやって作ったんだろう」「なぜ気づけたんだろう」というのは気になるものです。そこで仮にまだ「オイラーの公式」が発見されていなかったとして、自分もこの式を発見できるだろうか? という思考実験をしてみました。

オイラーの公式」を見つけ出そう

まず、二乗すると  -1 になる数  i があることが分かり、複素数  z = x + yi には実数と同じように四則演算が定義でき、多項式や有理式に代入できることが分かっていたとします。そこで「もしや指数関数も複素数へと拡張できるんじゃないか…?」と気づいたとしましょう。

複素数でも指数関数が定義できるとすれば、実数において持っていた良い性質をそのまま引き継いでて欲しいですよね。そこで指数法則:

 e^{a + b} = e^a e^b \tag{6}


そして指数関数の微分

 (e^{ax})' = ae^{ax} \tag{7}


が、複素数においても成り立つことを「要請」しましょう。まだ複素数で指数関数が定義できるかどうかも分からないので、仮にこの要請が破綻するならまた別のやり方を検討しよう…今はそういうプロトタイプフェーズです。

さて、早速定義域を複素数として  e^z = e^{x + iy} のように書いてみると、指数法則 (6) からこの式は:

 e^{x + iy} = e^x e^{iy} \tag{8}


とならねばなりません。右辺の  e^x はただの実数なので、 e^{iy} が定義できれば上の式によって複素数の指数関数を定義できそうです。そこで改めて実数  x に対して、

 f(x) = e^{ix} \tag{9}


がどんな関数になるかを考えることにしましょう。
関数の値は複素数であるとして、極表示によって、

 f(x) = r (cos \theta + i sin \theta) \tag{10}


とおいてみます。右辺は  r = r(x), \theta = \theta(x) のように  x の関数で、これが決定できれば OK という訳です。さて、 (9) において唯一分かるのは  x = 0 における値なので、

 f(0) = e^0 = 1 \tag{11}


一方 (10) では、 r(0) = r_0, \theta(0) = \theta_0 とおけば、

 f(0) = r_0(cos\theta_0 + i sin\theta_0) \tag{12}


(11), (12) を比較して、

 \begin{cases}
r_0 cos \theta_0 &=& 1 \\\
r_0 sin \theta_0 &=& 0 \tag{13}
\end{cases}


を得ます。
また、要請 (7) より (9) を微分すると、

 \begin{eqnarray}
f'(x) &=& i e^{ix} \\\
      &=& i r (cos \theta + i sin \theta) \\\
      &=& -r sin \theta + i r cos \theta \tag{14}
\end{eqnarray}


一方 (10) を微分すると、積・合成関数の微分公式より、

 \begin{eqnarray}
f'(x) &=& (r (cos \theta + i sin \theta))' \\\
      &=& r'(cos \theta + i sin \theta) + r( (-sin\theta) \theta' + i(cos\theta)\theta') \\\
      &=& (r'cos \theta - r \theta' sin\theta ) + i(r'sin \theta + r \theta' cos\theta) \tag{15}
\end{eqnarray}


となります。( \theta'を忘れがちなので注意!)
(14), (15) の実部・虚部を比較すれば、

 \begin{cases}
-r sin \theta = r' cos \theta - r \theta' sin \theta \\\
r cos \theta = r'sin \theta + r \theta' cos \theta \tag{16}
\end{cases}


を得ます。これで未知関数  r, \theta に対して方程式 (16) と初期条件 (13) が与えられた、微分方程式を解く問題へと帰着されました。

(ヒント: ここで (16) から上手く  r, \theta の一方を消去して未知数一つにしたいのですが… 式を見つめていると見えてきませんか?  cos, sin が上手く消えてくれる方法が…)

 (16.1) \cdot cos \theta + (16.2) \cdot sin \theta を計算すると、

 0 = r' + 0 \tag{17}


となるので、「微分したらゼロ」つまり  r定数 であることが分かりました。
初期条件 (13) より  r \neq 0 であるので、(16) で  r' = 0 とすれば:

 \theta' = 1 \Leftrightarrow \theta = x + \theta_0 \tag{18}


を得ます。初期条件 (13) に代入すれば、

 \begin{cases}
cos\theta_0 &=& 1/r \\\
sin\theta_0 &=& 0 \tag{19}
\end{cases}


を得ます。
 sin \theta_0 = 0 ならば  cos \theta_0 = \pm 1 で、 r \gt 0 より

 \begin{cases}
r &=& 1 \\\ 
\theta_0 &=& 2n\pi \tag{20}
\end{cases}


となるので、(10) に戻れば:

 \begin{eqnarray}
f(x) &=& 1 (cos(x + 2n\pi) + i sin(x + 2n\pi)) \\\ 
      &=& cos x + i sin x \tag{21}
\end{eqnarray}


を得ることができました!(オイラーの公式そのもの)

この式で本当に要請 (6), (7) がちゃんと満たされているか確認してみると、

 \begin{eqnarray}
e^{ix + iy} &=& cos(x + y) + i sin (x + y) \\\
            &=& (cos x \cdot cos y - sin x \cdot sin y) + i(sin x \cdot cos y + cos x \cdot sin y) \\\
            &=& (cos x + i sin x)(cos y + i sin y) \\\
            &=& e^{ix} e^{iy} \\\
\\\
(e^{ix})' &=& (cos x + i sin x)' \\\
          &=& -sin x + i cos x \\\
          &=& i(cos x + i sin x) \\\
          &=& ie^{ix}
\end{eqnarray}


より、ちゃんと複素数においても要請が満たされていることが確認できます。
以上より「複素数の指数関数」は、

 \begin{eqnarray}
e^z = e^{x + iy} = e^x(cos y + i sin y) \tag{C}
\end{eqnarray}


と定義できる…というよりは (6), (7) を要請するならこう定義するしかないということが分かりました!

指数法則と指数関数の微分の公式が成り立つことを要請することで、「オイラーの公式」だけでなく複素数の指数関数の定義まで得ることができました。「こうであって欲しい」というビジョンありきで真理を探るのは、闇雲に式をいじるよりも進んでる実感があって楽しいですよね。

実際はどうだったか?

ところで実際の歴史はどうだったんだろうと気になって調べてみました。 "Mathematics and Its History" によると、 1702年にオイラーの師匠であるヨハン・ベルヌーイが、

 \begin{eqnarray}
\frac{1}{1 + z^2} = \frac{1}{2}(\frac{1}{1 + iz} + \frac{1}{1 - iz})
\end{eqnarray}


という部分分数分解において、左辺の積分 tan^{-1}、右辺の積分は (  i虚数であることを忘れれば)  log になるはずなので、複素数対数にも何らかの意味がありそうだということに気づいたそうです。

しかし対数関数ではどうも上手く行かず、1740年にオイラーがその逆関数である指数関数で「オイラーの公式」を見つけ、1748年に例のゴリゴリの方法での証明を発表した、ということのようです。なるほど、この逆転の発想からさらに厳密な証明を作り上げる偉業は、やはりオイラーのような天才でないとできなかったんだろうなぁと思いました。

次回予告

さて、次回は今回導いた複素数における指数関数:

 \begin{eqnarray}
e^z = e^{x + iy} = e^x(cos y + i sin y) \tag{C}
\end{eqnarray}


そしてその仲間であった三角関数がどんな「形」をしているのかについて書こうと思います。それでは、また!