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31歳からの数学修士

なぜ再び数学するのか

年末の大掃除と「代数学の基本定理」

数学 複素数

どうも、taketo1024です。いよいよ年の瀬ですね。皆さんはもう大掃除は終わりましたか?僕は昨日張り切りすぎたせいで全身筋肉痛です。

窓拭きはムラなく一様にキレイにするのが難しく、拭いた跡が残っているのが気になって拘りだすと果てのない作業になってしまうものですが、そんなときにふと「複素数のように窓を拭けたらなぁ」と思い、今日はこの記事を書くことにしました。

まずは「代数学の基本定理」についてお話ししましょう。

代数学の基本定理」とは?

Wikipedia を見るとこんな風に書いてあります:

代数学の基本定理(英: fundamental theorem of algebra)は 「次数が 1 以上の任意の複素係数一変数多項式には複素根が存在する」という方程式論の定理である。

なんだか難しいですね。具体例を考えてみましょう。

 x^2+x+1=0 \tag{1}


こういう2次方程式を考えます。中学で「2次方程式の判別式」を習ったのは覚えていますか?一般の2次方程式

 ax^2+bx+c=0


に対して、その判別式:

 D=b^2-4ac


をとれば、その符号によって、

  •  D \gt 0 の場合は、実数解を二つ
  •  D=0 の場合は、実数の重解を一つ
  •  D \lt 0 の場合は、実数解なし

と、方程式がいくつ実数解を持つかを判定できるのでした。方程式 (1) の判別式をとれば、

 D = 1^2-4 = -3 \lt 0


なので、この方程式は実数解を持たないことが分かります。このことは、(1) の左辺の式を  x の関数と見て、

 y=x^2+x+1 \tag{2}


のグラフを書いてみると分かります。(1) の解とは、(2) において  y=0 となる  x、つまり (2) のグラフと  x軸 の交点です。見れば分かる通り、放物線は  x軸 の上に浮いていて交りません。

f:id:taketo1024:20141230161036p:plain

ここまでが「実数」の話。これを「複素数」まで広げれば、(1) は二つ解を持つようになります。実際に (1) は、2次方程式の解の公式を適用すれば、

 \begin{eqnarray} 
x &=& \frac{-1 \pm \sqrt{1^2 - 4}}{2} \\\
   &=& \frac{-1 \pm \sqrt{-3}}{2}
\end{eqnarray}


で、 \sqrt{-3} \sqrt{3}iと置き換えた二つの数:

 \displaystyle \alpha = \frac{-1 + \sqrt{3} i }{2}, \beta = \frac{-1 - \sqrt{3} i }{2} \tag{3}


は (1) の解となっています(代入して計算すると実際に  0 になります)。

…でもこれ想像できますか?上のグラフを見て「なるほど、この放物線は複素数のどこかで  x軸 と交わっているのか…(?)」と無理やり納得しようと思ってもいまいちしっくり来ませんよね。

 x, y複素数として (2) のグラフを描こうと思っても、複素数は2次元、グラフは 2 x 2 = 4 次元になるので、残念ながら我々にはそのグラフを見ることができません(特殊な訓練を積まない限り)。

複素関数の「動き」を見る

 x, y のままだと実数っぽく見えてしまうので、(2) をこう書き直します:

 w=z^2+z+1 \tag{4}


例えば  z=1 とすれば  w=3 と決まるように、 z, w複素平面上の点と見て、 z複素平面上で色々と動かしたときに  w がどう動くのかを追えば (4) がどんな「写像」を表しているのか把握することができます。

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 z を単位円上で動かしたときの  w の動きはこんな感じになります:

f:id:taketo1024:20141230161150g:plain


これは10月にやった「虚数は作れる!Swiftで学ぶ複素数」のために作ったデモアプリです。

赤い  z が単位円上を動くと、青い  wNTTのロゴ を左に90度回転したような軌跡を動くのが分かると思います。そして  w が原点を通過する瞬間が2回ありますね?このときの  z が (3) の  \alpha, \beta です。

4次元の世界が見えなくても、こうして複素関数は「見る」ことができるんです!

代数学の基本定理」の解釈

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 z の通る円を大きくしていくと  w の軌跡もどんどん大きくなり、遠くから見ると  z が円を一周するうちに  w はその倍のスピードで大きな円を二周するように見えます。これは  |z| が大きいときには、 w において  z^2 の項が支配的になり、

 w \simeq z^2


のようになっているからです。逆に  |z| 0 に近いときには  z^2, z の項はホコリのように小さくなり、 w は定数項  1 の回りでうにゃうにゃ動くだけです。

つまり  z 0 からどんどん大きくしていけば、 w 1 から徐々に大きくなっていき、いずれは  0 をその内側に含む大きな(ちょっと雑な)2重の円になる…その過程で必ず  0 を横切る瞬間があるはずなので、そのときの  z が方程式 (1) の解だという訳です。

以上は2次方程式に限った話ではないので、「代数学の基本定理」はこう言い換えることができます:

 n 次関数  w=f(z) の軌跡は、 |z| 0 から大きくしていけば、どこかで必ず  0 を通る。

これなら意味も分かるし、定理も成立しそうですよね!
(実際にこのやり方で「代数学の基本定理」を証明することができます)

また別の解釈

 n次関数は複素数の範囲では必ず  0 点を持つ」というと  0 がなんだか特別な値であるかのように思えますが、実はこれはどんな値でもいいのです。一般の n次関数を:

 f(z) = a_n z^n + ... + a_1 z + a_0


とすると、任意の複素数  \alpha に対して、

 f(z) = \alpha \tag{5}


となる  z は必ず存在します。なぜなら  \alpha を移項して、

 a_n z^n + ... + a_1 z + (a_0 - \alpha) = 0 \tag{6}


という方程式を考えれば、これもまた  n 次方程式なので、再び「代数学の基本定理」より必ず解を持つからです。

また  n 次式が解を持つとき、それは 1次式によって因数分解できます。分解された残りは n-1次式になるので、「代数学の基本定理」を繰り返し使えば、(6) はこんな風に書くことができます:

 a_n(z - z_1)(z - z_2)...(z - z_n) = 0


この n個の  z_1, z_2, ... z_n がすべて (5) の解になるので「 f(z)=\alpha となる  z はちょうど  n 個ある」ということになり、これがどんな  \alpha についても言えるのですから、こういうことになります:

 n 次関数  w=f(z) の軌跡は、任意の点  \alpha をちょうど  n 回通過する。

 w=f(z) を平面から平面への写像と見ればこういうこともできます:

 n 次関数  w=f(z) の像は、複素平面全体をちょうど  n 重に覆う。

ここまで来れば、窓拭きをしながら複素数に思いを馳せていた僕の気持ちが理解できると思います。

そして見えてくる、複素数の美しい姿

 w=z^2+z+1 を平面から平面への写像と見て、グラフにしたものがコチラです:

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どうです、美しいでしょう。左の円環が右のリボンに移されるのです。グラフに高さがついているのは、重なりが見えやすいように上下に調整したためです(ベシャッと潰したものが実際の像)。 w=0 となるのは「高さ軸」との交点で、確かにそれは2点あるのが見えるはずです。 zの円環を平面全体に広げていくと、 wのリボンは平面全体をちょうど二重に覆うように広がっていくのです。

しかしこのグラフ、実数のときの放物線のグラフと全然違いますよね。放物線はどこに隠れているのでしょうか?

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ありました!  z 平面の実軸が、 w 平面の実軸上に折れ曲がって移されています。この左端の点が放物線の頂点に対応していることが分かります。

実数だけを「数」だと思っていると、2次関数はその係数によって x軸との交点があったりなかったりした訳ですが、複素数まで広げてみれば2次関数はその係数によらず平面全体を2重に覆う写像であったことが分かります。どちらがその「真の姿」に見えるでしょうか。

せっかくなのでもう一つ、次数を一個あげて3次関数のグラフも見てみましょう。

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こちらは3回転のリボンになっています。 zを平面全体に広げれば、このリボンは平面全体を3重に覆うように広がっていく訳です。

このように  n次関数  w=f(z) は係数によらず複素平面全体を  n重 に覆う写像になっているのです。そして 「特に  w=0 に注目すれば、そこに移る  z もまた  n個ある」 というのが「代数学の基本定理」の主張だったのです。

まとめ

いかがでしたか?「代数学の基本定理」は「なぜ複素数なんてものを考える必要があるのか?」に対してはじめの答えを与えてくれるものですが、関数の動きと共に見てみるとより深く複素数というものが掴めてくるんじゃないかと思います。

グラフは Mac 標準のソフト Grapher で描きました。複素数のデモアプリは GitHubでソースを公開しています。いつかちゃんとアプリとしてリリースしたいと思いながら、重い腰があがらず年末になってしまいました。

最後までお読み頂きありがとうございました。年明けには「オイラーの公式」について書いてみようかなと思います。それでは2014年も残りわずかですが、良いお年をお迎えください。